OpenOffice.org MacOSX版は長い歴史をもっていますが、最初からサポート
されていたわけではありません。長い間、MacOSX版はX11版しか存在しませんでした。
(1.0のころAqua版がありましたがあまり広まらなかったのです)
コミュニティの非常に長い努力の結果Aqua版は少しずつ成長を続け、3.0で
リリースされました。日本語サポートに大きく貢献した加藤悦史さんに
今回はインタビューしてみました。

1. お名前と、バックグラウンドを教えていただけますか。

加藤悦史(えつし)です。ekato というメールアカウントをよく使っているので、
OpenOffice.org でも ekato というログイン名にしています。コントリビュー
ターといっても、基本的には単なるユーザーという感じで、どうしても気にな
る問題があって時間があるときだけコードを引っ張ってきていじっています。

バックグラウンド、と聞かれて何を話せばいいのかわかりませんが、ソフトウェ
ア開発に関して素人なので、とりあえずコンピュータ関連との関わりについて
思い返してみます。

子供のころに Basic のプログラムを本を見ながら何も考えずにキーを打ち込ん
だことがあるのを除いては、二十歳すぎまではまったくプログラミングとは縁
のない生活をしていました。その頃も Mac OS を使っていたのですが、ご存知
のように今の Mac OS X とは違って、マウスで何でもクリックして操作するよ
うな環境でした。そんな時に、MkLinux という、当時 Apple が開発していた
UNIX like な環境が自分の使っている Mac でも動くというのを知り、なんとな
くさわり始めたのが今に繋っているのではないかと思います。

そのころは、まったくプログラミングや UNIX に関する知識もなく、周りに詳
しい人もいなかったので、メーリングリストでのコアな人たちの話題をみなが
ら、見よう見まねで単にソフトをコンパイルしたりしているだけ、といった状
態でした。それでも、ソースコードが自由に利用できることが新鮮で、ものす
ごく感動していたような覚えがあります。また、普通の Linux とは少し異なっ
た環境を利用していたので、ちょっとでも問題があれば (実際よく問題があっ
たのですが)、自分でコードを修正してみたり、なんか書いてみようという気に
なったり、バグ報告してみたり、といった習慣が身についたのかもしれません。

2. OpenOffice.orgへ関わったきっかけはいつ頃、何でしょうか。

もう 10 年近く前の話になってしまいますが、そのころ Linux で表計算的なソ
フトをフリーで使うには選択肢がほとんどなく、テキストベースでは SC、GUI
のものでは SIAG か、まだ開発初期だった Gnumeric など、かなりマニアック
なものしかありませんでした。ix86 Linux 向けには StarOffice 5.2 が無償で
利用できるようになりましたが、他のプラットフォームでは使えなかったので、
そのころは Gnumeric を主に使っていました。Gnumeric に関してもいくつかバ
グ報告をして修正してもらったり、自分で直したりした記憶があります。

2002 年頃に、自分の作業環境を Mac OS X に移行したのですが、結局慣れ親し
んだ X Window System 環境のアプリケーションばかり使っていて、最初は
Gnumeric を使っていました。ただ、そのころ X Window System 向けの
OpenOffice.org を Mac OS X でも正式に動くようにしようという流れがあって、
これに乗っかった感じで関わったのが最初だと思います。

確かそれは 2003、4 年ころで、中田さんもよくご存知だと思いますが、Kevin
Hendricks さんの頑張りで情報もよく整備され、比較的簡単に Mac OS X 上で
ビルドができるようになっていました。ただし、国際化に関しては、当時の
Mac OS X のBSD 部分は今ほど洗練されていませんでしたし、そのあたりをヨー
ロッパやアメリカの人たちはあまり意識していなかったようなので、それを横
目で見つつ、とりあえず X11 の国際化機能が動くようにするのと、Mac OS X
のシステムの機構を使って言語環境の設定が効くような変更や、Osaka フォン
トが表示されるような変更をしてみました。はじめはまったく
OpenOffice.org の開発プロセスを理解していなかったので、いきなりメーリン
グリストにパッチを投げたりしてました。このあたりのプロセスでは、中田さ
んたちに助けてもらいました。


3. MacOSX版について、どのように関わられましたか。
(Issue番号をあげていただいてご説明いただければと幸いです)

先ほどお話しした、Mac OS X X11 版 (OOo 1.1.2) が最初でした (#i27945)。
まあ、その後も、X11 版に関する細かい修正点を、ちょくちょく
[メールアドレス保護], 
[メールアドレス保護] 
のメーリングリストで指摘したり、issue を書いた
りしていました。その後、X11 版が特にいじらなくても問題なく使えるものに
なったのと、自分の環境メインを Linux に移してしまったのが原因で、2006
年頃は Mac OS X 版にはあまり関わっていなかったような気がします。まあ、
その間も Linux 版を使っていて気づいた不具合に関して、描画まわりや GTK+
関連のパッチを取り入れてもらったりはしていました。

2007 年になって、また Mac OS X をメインに使うようになったのですが、ちょ
うど Mac OS X の Native Porting が Ericb さん中心にコミュニティーベース
で始まって、いくらか実装が進んでいた頃でした。これは結構驚きなことで、
そこで自分でも Aqua 版をコンパイルして試そうかなという気になったんだと
思います。試してすぐに、キーボード入力関連などのまだ未実装だった部分を
さらっと書いてみて、パッチを送ってみたのが一年半ほど前の話ですね
(http://porting.openoffice.org/servlets/ReadMsg?list=mac&msgNo=4908)。

これが直接のきっかけで、CVS レポジトリへのコミット権を得ることになりま
した。その後、SUN のエンジニアがフルタイムが Native Porting に関わるこ
とになり、ある程度システマチックに開発が進むようになりましたね。

4. MacOSX版の開発について、ご自身のどのような技術的バックグラウンドが
役に立たったと思われますか。

特に初期は X11 版を手伝っていたので、Linux での glibc の国際化とかその
あたりを MkLinux や Linux/PPC を使っていた頃に追っていたのが役に立ちま
した。

普段は Cabon や Cocoa の API を使う Mac OS X のプログラミングはまったく
やらないので、Aqua 版の開発においてはかなり手探りの状態で参加しました。
実際、Apple のレファレンスを検索しながらコーディングした感じです。ただ、
OS X の入力システムに関する基本的な動きは MacUIM というオープンソースの
入力システムをさわっていた経験上理解していましたし、OpenOffice.org の
GTK+ VCL plugin での入力部分の修正 (#i49311, #i67969) なんかもしていた
ので VCLの構造も大体理解していたのが、結局 Aqua 版の開発にも役立ちまし
た。Aqua 版の開発は、最初は Carbon API を利用、その後 Cocoa API を利用
とまったく異なったものになっているので二度手間になってしまいましたが、
それでも Carbon 版は練習的役割が十分にあったなと今は思います。

OpenOffice.org のマルチプラットフォームの構造上、Cocoa での記述はかなり
プリミティブなものから用意しないといけないのですが、そのあたりはあまり
Apple のレファレンスには載っていなかったりして、本当に試行錯誤でなんと
かするしかなく、結構大変でした。このあたりは、もっと Cocoa を熟知してい
るプログラマが参加してくれることを望んでいます。


5. MacOSX版の開発について、パッチの取り込みはいかがでしたか。

そうですね、コミット権をもらう前でも、基本的には Mac OS X 独自のバグ修
正や未実装な部分の追加なので、ほとんどパッチはコミットしてもらったよう
な気がします。主に気になる部分は VCL レイヤーなので、メーリングリストや
issue でやりとりする人たちも大体同じメンバーなので意思疎通はやりやすかっ
たですね。

コミット権を得てからは、Mac OS X Native 開発の CWS である aquavcl* では
自由にコミットさせてもらったので、何も問題はありませんでした。これも
VCL 関連で以前からやりとりのある pl さんや hdu さんが相手だったのでよかっ
たのかもしれません。いちおう 3.0 beta で aquavcl* の CWS を使っての開発
は終了したので、とりあえず今後直接コードをコミットすることはないと思い
ますが。これからは自分が利用する上でどうしても問題があり、なおかつ時間
があるようであれば、issue にパッチを出す形で関わろうかと思っています。

6. 開発機材、環境に関する困難はどのようなものがありましたか。

まず、Mac OS X がないとどうしようもない点がありますね。自前で用意したマ
シンの暇な時にいじるという感じです。2006 年頃は新しい Mac を持っていな
かったので、Mac OS X Porting に関わることはありませんでしたし。

そういえば、X11 版をさわっていたころは、初期の iMac G4 という非力なマシ
ンで OpenOffice.org のコードをいじっていたので、ハードディスクの容量も
足りないは、コンパイル速度も遅いはで、なかなか大変でした。今は安い
MacBook を使っていても、劇的に作業は楽になりましたが、逆に自分の時間が
足りないという問題があります。さすがに、コミット権を持っていて自分で開
発するとなると、バグへの対応への責任もありますし、時間がないと厳しいな
とは思っています。

7. 日本語回りに関する他のご興味を教えていただけますか。

とくにないんですけど、フォントまわりはもう少し理解しないとまともな作業
はできそうもありません。

8. blogなどありましたら教えてください。

http://ekato.wordpress.com/ にたまに OpenOffice.org や Mac のことを書
いたりしています。

9. 日本語圏の開発者の皆さんにメッセージをお願い致します。

まだ現在の OpenOffice.org Mac OS X 版はとりあえず動いて使えるようになっ
たという状態なので、ユーザビリティーに関してこれから修正すべき点はたく
[メールアドレス保護]
メーリングリストに参加してもいいんじゃないでしょうか? Mac OS X 版に関
しては、うまくコミュニケーションを取ることができれば、好きなようにいじ
れると思いますよ。

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以上です。
話し手: 加藤悦史
聞き手: OpenOffice.org 日本語プロジェクトリード 中田真秀
日時: 2008/9下旬

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